
チョコレート職人としてチョコレートの世界を突き詰めていくのならば、いつも思っていることですが、〈自分の望むチョコレートをカカオ豆から作る〉ということに行き当たります。自分のところのような小さな専門店で、大きな資金をかけずにどうしたらそれを実現できるか。これが常にテーマにあります。
今の段階では、チョコレートメーカーの作るチョコレート(=一次加工品)を使って二次加工して、ボンボン・ショコラやジャンドゥジャを作ったり、ナッツやフルーツをコーティングしたり、型に流してタブレットを作っています。チョコレートメーカーの作るチョコレートから自分の表現したい味、組み合わせる素材との組み合わせを考えて厳選し、最も適した製造方法を選択して加工しています。 だから、ベースとなるチョコレートをメーカーがどのように製造しているのか、今後自分でチョコレートを作るためにもいろいろなものを自分の眼で観ておきたくて、これまでも日本のチョコレートメーカーのラボを見せていただいたり、昨年のスペインへの旅では、バルセロナ郊外の「チョコヴィック」のラボを見せていただきました。
前から思っていたことだけれども、日本のチョコレートメーカーとヨーロッパのチョコレートメーカーでは、チョコレートを作っている環境が大きく違っています。
日本ではチョコレートの消費量のほとんどが流通菓子によるもので、当然、チョコレートメーカーでは流通菓子への材料供給を一番の目的にチョコレートを製造しています。それは日本に限ったことではなく、消費者が日常的に食べるのは、フランス、ベルギー、スイスであっても流通菓子。これは万国共通です。だから、専門店向けのチョコレートの生産量というのは、チョコレートの総生産量から見れば、どこの国でも微々たるものです。
日本のチョコレートメーカーとヨーロッパのチョコレートメーカーではなにが違っているのか。数十年前に言われていたように設備や原材料のカカオ豆の品質の違いなどではなく、今や、製造機械やシステムの良し悪し、カカオ豆の良し悪しにおいては、日本のメーカーもけしてひけを取ってはいなくて、数年前に世界的にマダガスカル産クリオロ種が稀少となったときにも、日本のメーカーには充分に供給されていたと聞きます。
では日本の場合、なにが大きく違ってくるかというと、ひと言で言えば衛生面の問題。ここがネックになっている。衛生面が非常に厳しくチョコレートの菌数についても厳しく、ヨーロッパのチョコレートのような菌数では到底製品化できない。菌数を抑えることを優先させるので、チョコレートの旨味成分である雑味の部分、香りや味を複雑に構成しているチョコレートの"華"とも言える部分を取り除かなくてはならなくて、結果としてチョコレートの個性を殺してしまう。
このことはフランスの「ヴァローナ」のチョコレートを食べてみればまちがいなくわかることで、豆をローストするとき芯までそれほど火を入れずに、豆の個性を残しつつ加工している。だからロースト臭、焦げ臭が少ないでしょう? こういったことがチョコレートの個性になります。これはみんながわかっていることなのだけれど、日本の状況、環境がそれを許さない。もし日本のメーカーのラインで、ほんの一部の専門店のためにそれをしてしまえば、大部分を占める流通菓子への材料供給に致命的なダメージを与える可能性があります。
ヴァローナはもともとが流通菓子向けに製造しているのではなく、専門店に向けてチョコレートを作っているメーカー。規模はけして大きくない。だからできる。そしてそれがヴァローナの突出した個性となり、チョコレートメーカーとしての差別化に繋がっています。
日本とヨーロッパ、チョコレート作りのスタンスが違うのではなく、置かれている環境が違うということ。日本の製造設備の性能、技術、カカオ豆の品質のレベルにまったく遜色はない。これは、日本のチョコレートメーカーを見学させてもらうと重々わかることで、チョコレートを知れば知るほど見えてきます。
でも、チョコレートメーカーとしてグレイドの高いものを作りたいというプライドは、もちろん日本のチョコレートメーカーにもあるし、どこの国のチョコレートメーカーでも思いは同じです。スペイン国内のシェアを60%以上持つ「チョコヴィック」は、当然、流通菓子向けの材料製造が生産量の大部分を占めているのですが、メーカーのプライドを「セルヴァティカ」というチョコレートを作って表現しました。
セルヴァティカは、ヴァローナを意識して作られたチョコレートですが、フランス人とスペイン人との感性の違いははっきりしています。情熱的で飾らない。なんと言うか、おおらかで情熱のままに表現する。フランスとは異なる個性です。それはダリやピカソといった芸術家や、世界を席巻しているスペイン料理にも共通しています。アウラ・チョコヴィックのレベルは世界でもトップクラス。料理の影響を受けてちょっとイキすぎたところもあるけれど、彼らが牽引して、チョコレートにおいてもスペインがヨーロッパになにか新しい流れをつくっていくんじゃないかと感じさせます。
需要があるかどうか、売れて利益が取れるかということだけではなく、チョコレートメーカーであれば、ノウハウや技術というものをとことん突き詰めて、頂点といえるものを作りたいと思う。これはチョコレートに限らない。自動車メーカーのF1参戦もそうでしょう?世界的に厳しい経済状況(車の場合は環境問題も関与しますが)にあっても頂点を目指して挑戦し続ける。それがメーカーの心意気。環境が許さないけれど日本のチョコレートメーカーも心に持っていることです。
チョコレートメーカーのプライド、心意気を感じるたびに、規模は全然違うけれども、小さい、小さい、専門店での話だけれど、これから自分の手でチョコレートを作っていきたいと考えている自分の背中を押してくれます。今年はイタリアの「ドモーリ」のチョコレートを作っていますが、このチョコレートメーカーもとてもおいしいチョコレートを作っていて、このメーカーのチョコレートに対する想いはカカオマスを食べたときにすごく強く感じました。それぞれのメーカーのチョコレートにはチョコレート職人のプライド、心意気が生き続けています。
今年のバレンタイン、確実に昨年よりもおいしくなったボンボン・ショコラをぜひ味わっていただきたいと思います。よりおいしいボンボン・ショコラを目指しての模索というものはずっとずっと続いていきますが、その一方で、突き詰めれば突き詰めるほど、自分の味をもっと表現するために自分のチョコレートを作る必然がどんどん高まっていきます。 自家製マジパンで作るカリソンがとても好評をいただいていて、バレンタインの贈り物にカリソンを選んでくださる方もいます。ショコラティエとしてとても嬉しいことです。PBのカリソンは手がかかっています。スペインのマルコナ種のアーモンドをローラーで挽くのですが、メッシュや糖の種類や量を加減し、火の入れ具合を調整して自分の求めるマジパンを作る。これが一次加工です。そこに自家製のフリュイ・コンフィを加えて成形し、グラス・ロワイヤルをかけてカリソンに仕上げる。これが二次加工です。とても手間がかかりますが、これをお客様がおいしいと言ってくださることが本当に嬉しい。これをチョコレートでやりたいのです。
アリさんのようにコツコツと少しずつですが、まだまだたくさんの時間がかかりますが、
「ラ・ピエール・ブランシュ」オリジナルのチョコレート作りに向かって、一歩ずつ確実に進んでいます。バレンタインはチョコレート業界、チョコレート屋さんにとってはとても大きなイベントですが、毎年言わせていただいているように、チョコレート職人にとっては毎年毎年が一つの通過点に過ぎません。チャップリンの「Next
one!」(あなたの最高傑作は?と聞かれて)という言葉ではありませんが、今年のバレンタインも次に向けての一過点。次の「ラ・ピエール・ブランシュ」を目指してコツコツとやっていきたいと思います。 |
 |
|